脂肪細胞の科学により代謝性疾患に挑む

 

【研究概要】
過栄養や運動不足などの生活習慣は、脂肪組織の量を増大させるだけでなく、脂肪組織において質的な大きな変化を生じさせます。この結果、脂肪組織が機能不全に陥ることで糖尿病や脂質異常症、非アルコール性脂肪性肝疾患を含むさまざまな代謝性疾患が形成されると考えられています。脂肪組織を構成する脂肪細胞には、エネルギーの貯蔵とアディポカインの分泌を担う白色脂肪細胞に加え、熱産生によりエネルギー消費を担う褐色脂肪細胞、寒冷などの刺激によって誘導されるベージュ脂肪細胞が存在します。当研究室では、脂肪細胞特異的遺伝子ノックアウトマウスやオミックス解析など幅広い解析手法を用いて、脂肪細胞による代謝調節とその破綻による代謝性疾患発症のメカニズムを解明し、栄養学的な視点から新たな予防・治療法を開発することを目指しています。

 

■ 脂肪組織の機能不全による代謝性疾患のメカニズムの解明
脂肪細胞が持つ機能の多くはインスリンによって制御されていますが、当研究室は、インスリンシグナルの鍵キナーゼPDK1と下流の転写因子FoxO1と呼ばれる経路が全身の代謝調節に重要であることを明らかとしました。現在、脂肪細胞から分泌される因子に着目しこのメカニズムの解明を進めています。

脂肪組織の機能不全による代謝性疾患のメカニズムの解明

 

■ 褐色脂肪細胞・ベージュ脂肪細胞に関する研究
褐色脂肪組織は熱産生により体温やエネルギー代謝調節に重要な役割を担っています。熱産生のエネルギー基質として、脂肪酸やグルコース、分岐鎖アミノ酸が使われますが、これらのエネルギー基質利用の制御機構は不明です。当研究室では、転写因子KLF15やインスリンシグナルの鍵キナーゼPDK1に着目しエネルギー基質利用変換の調節メカニズムに関する研究を行っています。また、ベージュ脂肪細胞の誘導メカニズムに関する研究を進めています。

褐色脂肪組織の熱産生におけるエネルギー基質利用調節に関する研究

 

■ 腸内細菌代謝物による代謝性疾患改善作用とメカニズムに関する研究
腸内細菌は全身の代謝調節に非常に重要な役割を担っています。当研究室では、ある種の腸内細菌が産生する代謝物に着目し、この腸内細菌由来代謝物による代謝改善作用とその分子機構に関する研究を行っています。

 

■ サルコペニアの分子メカニズムに関する研究
加齢に伴う骨格筋量低下の分子メカニズムに関する研究を進め、栄養学的な視点からその治療・予防法の開発を目指しています。